男性が 30 代でやっておくべきこと — 締切が自分の外にある 4 種類から先に決める
「30 代でやっておくべきこと」で検索して出てくる記事を 10 本読むと、中身がほぼ 3 つに収束します。キャリア、資産形成、スキル。
この 3 つが並ぶのには理由があります。どれも締切を自分で動かせるから、書きやすいのです。転職はいつでもできる。積立は来月からでも始められる。英語も 40 代から学べる。誰も傷つかないし、読者も否定されない。
けれど、30 代で本当に取り返しがつかなくなるのは、その 3 つではありません。
締切を自分では動かせない項目 —— 相手の年齢で決まるもの、自分の身体で決まるもの、制度で決まるもの —— を後回しにしたときだけ、選択肢そのものが消えます。この記事は、その消える側だけを扱います。
「やりたいこと」と「やっておくべきこと」は、締切の所在で分かれる
同じリストに書いていると混ざりますが、この 2 つは別のものです。
| やりたいこと | やっておくべきこと | |
|---|---|---|
| 締切を握っているのは | 自分 | 自分以外(相手の年齢・自分の身体・制度) |
| 5 年送ると | 5 年遅れて実行される | 選択肢が消えることがある |
| 決め方 | 好きな順 | 期限が早い順 |
| 数 | 多くてよい | 少ないほうがよい |
やりたいことは、順番を入れ替えても壊れません。オーロラを 35 歳で見ても 45 歳で見ても、オーロラはそこにあります。
やっておくべきことは、送った年数がそのまま消えます。父親が 68 歳のときに「来年でいいか」と送った旅行は、翌年に 1 回ぶん減った状態で戻ってきます。
だからこの 2 つは、別のリストで、別の決め方をする必要があります。やりたいこと側の候補を広く出したい場合は 30 代で書くべきバケットリスト 30 選 に 5 カテゴリ 30 項目を並べてあるので、そちらを使ってください。この記事は逆に、候補を増やさず、消える項目だけを絞り込むためのものです。
30 代男性の「動ける残り」を、一度だけ数字で確定させる
男性向けの「やっておくべきこと」記事には、精神論が多く混ざります。
ですが、性別で本当に変わるのは数字だけです。それ以外は男女でほとんど同じことを書くことになる。だから最初に、その数字だけを確定させます。
厚生労働省が公表している最新値(2022 年・令和 4 年)はこうです。
| 平均寿命 | 健康寿命 | 差 | |
|---|---|---|---|
| 男性 | 81.05 歳 | 72.57 歳 | 8.49 年 |
| 女性 | 87.09 歳 | 75.45 歳 | 11.63 年 |
健康寿命とは、介護を必要とせず自立して日常生活を送れる期間のことです。旅行に行く、山に登る、子供と走る、親を連れ出す —— この記事で扱う項目のほぼ全部が、この期間の中にしか置けません。
ここから逆算します。
| 現在の年齢 | 健康寿命までの残り(男性) | 週にすると | 女性との差 |
|---|---|---|---|
| 30 歳 | 約 42.6 年 | 約 2,220 週 | −2.9 年 |
| 35 歳 | 約 37.6 年 | 約 1,960 週 | −2.9 年 |
| 39 歳 | 約 33.6 年 | 約 1,750 週 | −2.9 年 |
30 歳の男性にとって、30 代の 10 年は「動ける残り」の約 23% にあたります。人生の 4 分の 1 ではなく、動ける時間の 4 分の 1 弱。ここが感覚とずれる一点目です。
そして週数で見ると、印象が変わります。30 歳で 2,220 週。年に 2 回帰省するなら、帰省の回数は残り 85 回前後です。
自分の生年月日で出したい場合は 人生の残り時間計算機 を使ってください。平均値であって個人の寿命の予測ではありませんが、桁を一度掴んでおくことに意味があります。数字の読み方そのものは 健康寿命と人生設計 に詳しく書きました。
締切が自分の外にある 4 種類
ここからが本題です。締切の出どころで 4 つに分けます。
種類 1: 他人の年齢に締切があるもの
最も早く閉じ、最も見落とされる種類です。
親と祖父母、子供、恩師、体調に不安のある友人。この人たちとの時間は、自分が何歳かではなく 相手が何歳か で期限が決まります。
30 代の男性が 60 代の親を持っている場合、親の健康寿命まではおよそ 10 年前後しか残っていません。しかも「残り 10 年」は連続した 10 年ではない。年に数日しか会わないなら、実際に一緒にいられるのは合計で 190 日前後 です。旅行や外食ができる状態に限れば、さらに短くなります。
この種類に入る代表例:
- 親と二人だけで旅行に行く(家族全員の旅行とは別物として数える)
- 祖父母に家族史を聞いて録音する
- 子供が「親と行きたい」と言ってくれる年齢のうちに行く場所へ行く
- 恩師・最初の上司に会いに行く
- 親に自分の仕事を実際に見せる
子供がいる場合の窓はさらに短く、濃密に過ごせる時間の大半は 12 歳までに消化されます。小学 3 年生と約束したことを 3 年送るのは、中止と同じ意味になります。
種類 2: 自分の身体に締切があるもの
40 代でもできますが、同じ体感では得られない種類です。
- 初めてのフルマラソン、初めての 3,000m 級の登山
- 安宿と夜行バスを前提にした長期の旅
- 学生時代の競技を一度本気で再開する
- 30 代の人間ドックの数値を残す
最後の 1 つだけ性質が違うので補足します。人間ドックの数値は「やりたいこと」ではありませんが、30 代のうちに測っておかないと、後年の変化を比較する基準そのものが存在しなくなります。50 代で初めて測った数値は、異常かどうかは分かっても、自分がどこから来たのかは教えてくれません。可逆でない項目としては、これが最も安く済むものです。
種類 3: 制度と手続きに締切があるもの
見落とされやすいのは、制度側が年齢で線を引いている項目です。
- 住宅ローンの完済年齢から逆算される借入可能期間
- 保険の加入条件(健康状態が変わる前に決めておくかどうか)
- 長期の積立が複利で効く年数
これらは金額の話に見えますが、実際には 年齢が入力値になっている ので、この種類に入ります。ただし専門的な判断が要るので、この記事では線を引くだけにして深入りしません。資産の取り崩し側の考え方は ネットワース・ピークを 45〜60 歳に設計する にまとめてあります。
種類 4: 関係の構造に締切があるもの
これは年齢ではなく、全員の予定が合う確率で決まります。
30 代のうちは、旧友 5 人の予定を合わせるのがまだ可能です。40 代に入ると、結婚・出産・転職・介護が全員にばらばらのタイミングで発生し、5 人が同じ日に空いている確率が構造的に落ちます。
同じ理由で、上の世代に「学ばせてください」と言える立場も 30 代が最後になりやすい。40 代からは、教える側に回ることを周囲が期待し始めます。
- 旧友 5 人で 1 泊の集まりを 1 回だけでも成立させる
- メンターと呼べる相手を意識的に 3 人持つ
- 会社と家族の外に、属する場所を 1 つ作る
4 種類を、期限順に並べる 3 ステップ
分類しただけでは実行されません。並べます。
ステップ 1: 相手の年齢を実数で書く。
種類 1 の項目を書き出し、それぞれの横に 相手の現在の年齢 を書きます。父 67、母 64、祖母 89、恩師 72。この数字を書いた瞬間に、順番はほぼ自動的に決まります。祖母が 89 なら、他の何より先です。
ステップ 2: 残り回数を書く。
年数ではなく回数で書きます。「あと 10 年」ではなく「あと 20 回」。年に 2 回帰省するなら、親と会えるのは残り 20 回前後。この変換をすると、送ることの意味が変わります。20 回のうち 1 回を捨てる、という判断になるからです。
ステップ 3: 上から 3 つだけ取り出して、日付を入れる。
4 種類ぜんぶを走らせようとすると、結局どれも動きません。期限の早い順に 3 つだけ取り出し、カレンダーに具体的な日付を入れます。「今年中」ではなく「11 月 22 日」。
リストが実行されない構造そのものについては バケットリストが続かない 5 つの理由 に書きました。原因のほとんどは意志ではなく、締切が書かれていないことです。
男性のほうが締切が早く来る、2 つのこと
ここだけは、冒頭の数字が直接効いてきます。
1. 動ける期間が約 2.9 年短い
健康寿命の男女差は 2.88 年です。小さく見えますが、これは 60 代後半以降の、最も動きたい時期の 3 年 にあたります。
30 代のうちに「60 代でやる」と決めた項目がある人は、その計画を男性の数字で立て直してください。60 代の後半に置いた項目は、平均値で見るとかなり際どいところにあります。
2. 平均寿命が約 6 年短い ―― 「先に亡くなる側」の設計になりやすい
平均寿命の差は 6.04 年です。夫婦であれば、統計的には男性が先に亡くなる側になる可能性が高い。
これは重い話に見えますが、30 代でやっておくことは事務的です。
- 口座・保険・サブスクの一覧が、自分以外に分かる場所にあるか
- 資産をいつ、誰に、どの形で渡すかを一度でも言葉にしたか
- パートナーと「20 年後どうしたいか」を具体的に話したか
Bill Perkins は『DIE WITH ZERO』で、遺産は死んだときではなく 相手が最も活かせる年齢 で渡すべきだと書いています。受け取る側が 26〜35 歳のときに渡すのが最も効く、という主張です(「子供への遺産は 26〜35 歳に渡せ」)。これを実行するには、渡す側が 30 代のうちから逆算しておく必要があります。
なお、これ以外の「男性はこうあるべき」という話は、データの裏づけがないのでこの記事では扱いません。健康、関係性、体験の項目は、男女で中身がほとんど変わらないというのが 5 年リストを運用してきた実感です。
30 代のうちに決めておく、たった 1 つのこと
4 種類を全部やる必要はありません。
30 代のうちに決めておくべきことを 1 つだけ挙げるなら、「相手の年齢で締切が決まる項目を、自分の都合で動かさない」というルールを持つことです。
仕事が忙しい年は必ず来ます。そのときに削られるのは、いつも締切が書かれていない項目です。親との旅行は、締切が書かれていないから削られる。キャリアの予定は、締切が書いてあるから残る。
だから、親の年齢と残り回数だけは、削れない形で書いておく。それだけで、30 代の 10 年の使われ方が変わります。
まずは種類 1 の項目を 3 つ書き出して、相手の現在の年齢を横に添えてください。所要時間は 5 分です。その 5 分が、この記事で最も価値のある部分です。
FAQ
よくある質問
- 男性と女性で、30 代にやっておくべきことは本当に違うのですか?
- 項目の中身はほとんど変わりません。性別で確実に違うのは数字だけです。健康寿命は男性 72.57 歳・女性 75.45 歳、平均寿命は男性 81.05 歳・女性 87.09 歳(2022 年・厚生労働省)。自立して動ける期間で約 2.9 年、寿命全体で約 6 年の差があります。この記事はその差を根拠にしており、「男はこうあるべき」といった精神論は扱いません。
- 30 代後半からでも間に合いますか?
- 4 種類のうち「自分の身体」と「関係の構造」は 30 代後半でも十分に間に合います。急ぐべきは「他人の年齢」に締切がある項目です。親が 60 代後半なら窓はすでに閉じ始めており、ここだけは 39 歳と 35 歳で残り回数がはっきり違います。判断の順序は本文の 3 ステップをそのまま使ってください。
- 「やりたいこと」のリストとは別に作るべきですか?
- 分けたほうが機能します。やりたいことは締切が自分の中にあるので、順番を入れ替えても壊れません。やっておくべきことは締切が外にあるので、送った年数がそのまま消えます。同じリストに混ぜると、締切のない項目が上に来て、締切のある項目が毎年繰り越されます。やりたいこと側の 30 個は 30 代で書くべきバケットリスト 30 選 にまとめてあります。
- 仕事が忙しくて、どれも実行できる気がしません。
- 4 種類すべてをやる必要はありません。本文の 3 ステップで期限が最も早い 3 つだけを取り出し、そこに次の実行日を入れてください。この記事の目的は項目を増やすことではなく、先に決めておかないと選択肢が消える項目だけを分離することです。忙しさそのものへの対処は やりたいことが多すぎて時間が足りない に書きました。
- キャリアや資産形成は 30 代で最優先ではないのですか?
- 重要です。ただし締切の性質が違います。キャリアも資産形成も、5 年遅らせれば 5 年ぶん遅れて到達するだけで、到達先自体は消えません。一方、親と旅行に行く、子供と秘密基地を作る、30 代の身体で山に登るは、5 年送ると選択肢そのものが消えることがあります。優先度ではなく、可逆かどうかで分けてください。
- 焦りだけが強くて、何から手をつけるか決められません。
- それは 30 代後半に特有の状態で、原因は残り時間が漠然としていることにあります。まず数字を一度だけ確定させてください。本文の表と 人生の残り時間計算機 で、自分の残り週数を出すところから始めます。焦りの構造そのものは 30 代後半の「焦り」の正体 で分解しています。